聴くべしアルバム② SATURATIONⅡ/BROCKHAMPTON

Saturation II - Wikipedia

 

数々の名盤を遺して2022年に無期限活動休止となった本人たち曰く”ボーイズバンド”のBROCKHAMPTONによるアルバム2作目。

SATURATIONシリーズはどれを聞いても当たりだが個人的に一番好きなのは2。

BROCKHAMPTONのすべてのアルバムに言えることだが味の違う様々な食材を混ぜたる和えたり焼いたらめちゃくちゃ美味しい料理ができたみたいな感動を味わえる。

彼らの何よりの特徴の一つは独特なサウンド。時折サンプリングも織り交ぜながらヒップホップらしいビートの作り方に忠実ながらも、どの曲にも曲の芯ともいえるサウンドというかメロディーがあってそれがとても耳に残る。

SATURATION2は個人的にはサウンドの癖を効かせつつも一番聴いてて疲れないアルバムだと思う。

GUMMY、QUEER、JELLOとアップテンポのバンガーを用意しつつも次2曲はBPMを落とし熱は冷めない程度に肩を揺らさせてくれる。その後もskitを挟みながら様々な角度から攻めたサウンドを披露し、最後にはギターの効いたいわゆるエモ調のSUNNY、SUMMERで締めてくれる。

 

何人ものラッパーとシンガーが代わり替わり現れそれぞれの個性を発揮しながら曲を編んでいくのはこのグループでしかできない技であり、じっくり聞いてそれぞれのメンバーの技術を堪能してほしい。

聴くべしアルバム① Illmatic/Nas (1994)

 

生きる伝説として現在も精力的にアルバムをリリースし続けるNasのデビューアルバム。

70年代にヒップホップが生まれ、単なるダンスミュージックのジャンルがからLL coolJがイケてる音楽へ、Public Enemyが社会派のアーティストたちが持つ武器へ、N.W.Aがギャングの生きざまとその恐ろしさを伝えるツールへと手を施していった80年代の後に、クイーンズ出身のNasはラップミュージックをニューヨークに生きる黒人のリアルを伝えるメディアの一つとした。

 

このアルバムの最たる魅力の一つはNasのマイクから放たれるリリシズムだろう。

ラップミュージックにおいてリリシズムを語るときにこのアルバムは避けては通れないし、新しくリリースされたアルバムのリリシズムをレビューするとき必ずこのアルバムは比較対象となる。

ただラップがめちゃくちゃ上手いだけでなく頭も冴える青年だったNasはNYのクイーンズで貧困や治安の悪さに苦しみながら、クスリをさばいたり強盗を働いて稼ぎその金で酒や女やドラッグ、金の浪費に溺れることで今日も生きていけるとする貧困街に住む黒人達の"リアル"を言葉巧みに伝えた。

"人生はくそったれだ"とブルックリン出身のラップ仲間AZと共に、"眠りは死のいとこ"とまで言わせるゲットーで生きていく厳しさを、Verbal AssassinことNasは同じ環境で生きているホーミー達をシャウトアウトしながら語った。

 

もちろん魅力はリリシズムだけでなくQ-tipPete Rockといった当時のNYの一流プロデューサーによって手掛けられたビートにもある。正直リリックが分かんなくてもビートとフローだけで飯2杯くらいはいけると思う。

サンプリング文化が花開いた90年代前半の東海岸オールドスクールなビートの集大成ともいえるだろう。ぜひwhosampled.comとかで美しいビートがどんな構成をしてるのかも一緒に見てほしい。

 

好きなリリック

'Cause when the pistol blows,

the one that's murdered be the cool one (One loveより)

 

'Cause when the pistol blows

ピストルが鳴った時、

 

the one that's murdered be the cool one 殺された奴はクール(死冷)になる

the one that murdered be the cool one 殺した奴はクール(冷酷)なやつだ

となる2重の言葉遊び。