聴くべしアルバム① Illmatic/Nas (1994)

 

生きる伝説として現在も精力的にアルバムをリリースし続けるNasのデビューアルバム。

70年代にヒップホップが生まれ、単なるダンスミュージックのジャンルがからLL coolJがイケてる音楽へ、Public Enemyが社会派のアーティストたちが持つ武器へ、N.W.Aがギャングの生きざまとその恐ろしさを伝えるツールへと手を施していった80年代の後に、クイーンズ出身のNasはラップミュージックをニューヨークに生きる黒人のリアルを伝えるメディアの一つとした。

 

このアルバムの最たる魅力の一つはNasのマイクから放たれるリリシズムだろう。

ラップミュージックにおいてリリシズムを語るときにこのアルバムは避けては通れないし、新しくリリースされたアルバムのリリシズムをレビューするとき必ずこのアルバムは比較対象となる。

ただラップがめちゃくちゃ上手いだけでなく頭も冴える青年だったNasはNYのクイーンズで貧困や治安の悪さに苦しみながら、クスリをさばいたり強盗を働いて稼ぎその金で酒や女やドラッグ、金の浪費に溺れることで今日も生きていけるとする貧困街に住む黒人達の"リアル"を言葉巧みに伝えた。

"人生はくそったれだ"とブルックリン出身のラップ仲間AZと共に、"眠りは死のいとこ"とまで言わせるゲットーで生きていく厳しさを、Verbal AssassinことNasは同じ環境で生きているホーミー達をシャウトアウトしながら語った。

 

もちろん魅力はリリシズムだけでなくQ-tipPete Rockといった当時のNYの一流プロデューサーによって手掛けられたビートにもある。正直リリックが分かんなくてもビートとフローだけで飯2杯くらいはいけると思う。

サンプリング文化が花開いた90年代前半の東海岸オールドスクールなビートの集大成ともいえるだろう。ぜひwhosampled.comとかで美しいビートがどんな構成をしてるのかも一緒に見てほしい。

 

好きなリリック

'Cause when the pistol blows,

the one that's murdered be the cool one (One loveより)

 

'Cause when the pistol blows

ピストルが鳴った時、

 

the one that's murdered be the cool one 殺された奴はクール(死冷)になる

the one that murdered be the cool one 殺した奴はクール(冷酷)なやつだ

となる2重の言葉遊び。